6月16日、グローバル人材共生推進議員懇話会(GG懇)総会が開かれ、GG懇座長の長島昭久氏が「グローバル人材共生社会実現のための提言」を発表し、了承されました。
総会にはGG懇会長の河村建夫氏、最高顧問の二階俊博氏(自民党幹事長)、会長代行の林幹雄氏(同幹事長代理)、事務局長の伊藤忠彦氏、三木亨氏、武部新氏、小寺裕雄氏、福井照氏が出席しました。
総会でNAGOMi会長の武部勤は「素晴らしい(GG懇の)提言をつくっていただいた。是非とも提言を菅(義偉)首相にもあげていただくことをお願いしたい」と述べました。GG懇会長の河村氏は「国策として極めて重要であると首相にもご理解いただけると思う。提言が随所で実行されていく、具現化されていくことを望む。推進するうえで立法が必要であれば取り組まなくてはならない」と総括し、最高顧問の二階氏は「懇話会のような生易しい名前ではなく、びしっとした実行力ある名前で自民党の正式な機関として進めてはどうか」と強調しました。
NAGOMiから副会長の梅田邦夫、畩ヶ山幹雄、専門アドバイザーの山脇康嗣(弁護士)、長澤雄二郎(行政書士)が出席しました。政府から内閣官房、出入国在留管理庁、外務省、厚労省、警察庁、経産省、国交省、観光庁、文科省、農水省が出席しました。
GG懇はこれまでNAGOMiや関係省庁と5回の勉強会を開催してきました。
総会で了承されたGG懇の提言は次の通り。
グローバル人材共生推進議員懇話会
グローバル共生社会実現のための提言
はじめに~アジアの模範となる人材確保と人材育成システムの構築を
技能実習制度は1993年にスタートし、2009年に在留資格「技能実習」が新設され、2017年に技能実習法が施行された。2018年に「出入国管理及び難民認定法」が成立し、新たな在留資格「特定技能」が創設され、新制度の下で外国人材の受入れが可能となった。
在留技能実習生数は41万人を超え、累計で200万人を超えるアジアの若者たちが、帰国後、日本で学んだ労働倫理、日本語、技能・知識を活かして就業あるいは起業し、母国の経済発展に貢献している。これは、技能実習生一人一人にとって、母国での得難い就業の機会でもあり、帰国後の本人のキャリアアップと生活改善に寄与している。
我が国においても、受け入れ企業における日本人従業員の高齢化が進む中、若く向上心あふれる技能実習生は組織の活性化、生産性向上など好影響を与えている。地方自治体の中には、技能実習生を含めた外国人と地域との交流を推進し、地域活性化の梃子にしているところも増えている。
アジアは、日本にとって、政治的、経済的、安全保障上、最も重要な地域であり、アジアの安定と成長が国際社会の平和と繁栄の試金石となるであろう。その中で、技能実習制度はアジア諸国の「人づくり」の場として日本とアジアの共存共栄に大きな役割を果たしており、国際貢献の観点からも極めて有意義な制度である。
一方で、不充分な日本語研修による技能実習生のコミュケーション能力の欠如や高額な手数料を要求する不正なブローカーの介在等によって失踪や不法滞在などのトラブルも発生している。また、労働関連法規や入管法を順守しない悪質な監理団体や受け入れ企業による人権侵害、技能実習や留学生制度における「偽造書類」の常態化など、可及的速やかに解決しなければならない課題もある。
我が国の歴史と伝統を貫く「寛容な精神」は、国際社会の普遍的な人権感覚と親和性が高く、差別のない多文化共生社会を創生し、アジアの模範となる人材確保と人材育成システムの基盤となる。
私たちは、外国人材が安心して活躍できる環境整備を進め、共に活躍できるグローバル人材共生社会を実現するため、以下の通り提言する。
技能実習と特定技能の整合性のとれた一貫性のある制度改革
技能実習生や特定技能外国人の育成・保護・支援を的確に行い、差別のない健全で公平・公正な外国人材就労システムを構築する必要がある。
人材確保、人材育成、国際貢献を両制度に共通の目的とし、キャリアステージに合わせた選択幅のある在留資格制度を確立するため、技能実習制度と特定技能制度を整合性のとれた一貫性のある外国人材受け入れ制度に改革する。
技能実習の3年間を基礎的人材育成期間(我が国における就労の入口)、それに続く特定技能の5年間を実践的人材育成期間として位置付けることによって、計画的で一貫した外国人材確保・人材育成システムとする。
技能実習の職種・作業と、特定技能の特定産業分野・業務区分を可能な限り共通化し、両制度の運用についても統一を図る。
1. 技能実習法を改正し、国際貢献(持続可能性のあるアジア各国の成長と安定への寄与)に加え、人材確保(及び段階的かつ計画的な技能修得による人材育成)を技能実習制度の目的として位置づける。
2. 監理団体は非営利組織のみに限るとの建て付けは維持する。人権侵害などのない健全な外国人就労システムの構築という観点から、監理団体の許可要件や優良基準を改正し、登録支援機関についても許可制にする。
3. 狭義の技能移転を技能実習制度の目的から削除し、前職要件を撤廃する。
4. 技能実習制度において、労災事故の防止、労使間のコミュニケーション不全による種々の問題の防止及び日本社会において安定的な生活を可能とするために、技能実習計画認定基準として日本語能力要件(N5相当)を新設する。
5. 入国前講習や入国後講習の内容・期間を拡充し、継続的な日本語学習の実施を義務化する。日本の基礎的生活習慣や文化、日本で犯罪となる行為や法的保護情報等を具体的に教える。実習実施者において実習を開始した後も、技能実習生が継続して日本語学習ができるよう監理団体や実習実施者が配慮すべき義務を技能実習法に追加する。
6. 技能実習制度と特定技能制度との間で人材育成として一貫性を持たせる措置を講じる。両制度の職種や業務区分を可能な限り共通化し、産業技術の発達に応じて職種などの区分や審査基準、技能検定を改める。実践的人材育成を行うべき特定技能所属機関に対し、技能修得・向上配慮義務(責務)を課す。
7. 制度のさらなる適正化、労働法上の権利侵害を含む人権侵害の防止のための措置を講じる。送り出し機関の違法な手数料徴収などに係る二国間取決めに基づく情報共有・連携、送り出し国への働きかけの強化(違反者に対する摘発の強化及び厳罰化の要請)、外国人技能実習機構による審査、検査、摘発体制の強化、さらに監理団体、実習実施者や失踪者を雇用する企業などへの罰則などの制裁を強化する。転籍を認めるケースを明確化し、その機会を可能な限り確保できるようにする。
8. キャリアステージにあわせた幅広い選択肢を在留資格制度において創設する。在留期間の上限がない「特定技能2号」に係る特定産業分野を拡大するとともに、日本語能力を含む一定の要件を満たした技能実習修了者について「特定活動」等での在留継続を認める(外国人材育成マネージャー、国際交流推進員、企業内管理者等)。
基本的課題を克服するための施策
グローバル人材共生社会を目指すにあたり、基本的な課題を克服するため、以下の施策を講じる。
1. 技能実習生の意識・能力向上
訪日前の日本語能力要件(N5)の新設ならびに訪日前(後)の研修の充実(特定技能も同様)を図る。日本語能力が実習の成否を左右し、コミュケーション能力欠如が失踪などトラブル発生要因の一つとなっていることから、実習期間中も日本語学習等、資格取得のインセンティブを提供することが重要。また、実習の目的、仕事内容、日本文化・慣習、妊娠、失踪、不法滞在、犯罪予防などについて実習生の理解を深める研修を行う。
そのためには、政府は日本語教育を強化し、日本語教師の派遣や日本語機関の支援など国内外を問わず、日本を目指す外国人が日本語を学ぶ機会を拡大することが重要である。
2. 失踪・不法滞在防止対策
2021年3月、ベトナム政府は、「外国におけるベトナム人労働者の失踪及び不法滞在の基本的原因となっている、労働者が規定を大幅に超えた手数料を支払わなければならない状況を是正するため、関係省庁や送り出し機関等の処分を行う」旨を発表した。実習生を保護するため、キックバックや過剰接待を禁止し、罰則強化を促す必要がある。
また、ブローカーを利用することなく「送り出し機関」を選択できるプラットホームを送り出し国側と協力して構築していくことが望まれる。
失踪の斡旋や不法滞在者の就職、盗品の売買などはSNSを通じて実施されていることから、失踪・犯罪につながるSNSの取り締まりを強化する必要がある。
監理団体・実習実施者に対し、担当者が訪日前の家族と面会することや日本人職員や地域コミュニティとの交流の場を作ることなどを奨励する。
3. 人権侵害対策(暴力・給与・残業未払いなど)
2017年に設立された外国人技能実習機構が行う監査によって、不正な監理団体の許可取り消しが行われるなど、機構の検査体制、関係各省による処分はようやく機能し始めた。ただし、技能実習機構は技能実習生20万人の時代に計画・設立されたものであり、実習生40万人以上の現状に対応しきれていない。より適切な検査と厳格な処分のために「技能実習機構の早急な体制強化」が必要である。
悪質企業等の刑事告発(抑止力強化)のほか、「ブラック企業の事前排除」として入管法関連で書類送検された企業名を、労基法違反と同様に公表等を検討すべきである。
一方で、優良監理団体に対しては、監査の簡素化・効率化や技能実習生の受け入れ人数の拡充などのインセンティブを提供することも効果が期待できる。
特定技能においても、登録支援機関や労働者受け入れ企業・団体に対する厳正な検査と法令違反者に対する処分等の制度化が必要である。
4. 偽造書類対策
技能実習や留学生制度において「偽造書類」の提出が常態化しており、厳格な偽造書類対策は、「質の高い技能実習生・留学生の確保」のみならず、「借金減額」の観点からも不可欠である。
技能実習生は高卒の地方出身者など職歴のない候補者が多く、偽造書類を提出することが常態化している。前述の通り、技術移転を技能実習制度の目的から削除し、前職要件を撤廃すべきである。
日本語学校留学生の在留資格審査にあたっては、政府や公的機関発行の高校卒業認定書や成績証明書の提出や健康診断(特に結核)の義務化を早期に実施することが必要。公文書偽造の観点から認定書提出の義務化は強い抑止力になる。
「技能・人文知識・国際業務」の資格審査においても、政府や公的機関発行の大学卒業認定書や成績証明書の提出を義務化すべきである。
5. グローバル人材共生会議の設置
国、都道府県のブランド力(信用・安心・ネットワーク)、市町村との地域密着力、民間の機動力及び専門家など産学官ワンチームによる「グローバル人材共生会議」を都道府県単位に設置する。
6.対外発信の強化
各国政府、各種人権団体に対して、人権侵害対策などに係る対外発信を強化する。
結びに~グローバル人材共生社会の実現は国益
日本人は、多様で多彩な自然・風土の中で「万物共生」の精神を育んできた。また、他国の文化や信仰を「寛容な精神」で受け入れ、日本流に同化し社会・経済を発展させてきた歴史を有する。一方で、深刻な人口減少に直面する我が国は、社会・経済を支える人材を確保するとともに適切な人材育成システムを構築することが喫緊の課題である。
「日本の国柄」にあこがれ、「日本を学びたい、日本で働きたい」と期待を寄せて訪れるアジアの若者がさらに増えるよう産学官一体となった努力が必要である。アジアの安定と日本の持続的発展のために日本の国柄や伝統の精神を再認識し、向上心のある外国人材を幅広く受け入れ、未来を託すのにふさわしい人材を確保し育成することを日本の国益として取り組むべきである。