I. アジアの模範となる人材確保と人材育成システムの構築
グローバル人材共生推進議員懇話会の基本指針において、我が国の歴史と伝統を貫く「寛容な精神」と国際社会でも通用する歴史観と人権感覚が必要であり、それを踏まえ、差別のない共に活躍できる多文化共生社会を創生し、アジアの模範となる人材確保と人材育成システムを構築すべきであるとの理念が提示されました。
多様なラグビー日本代表チーム
ラグビーワールドカップ2019の日本代表キャプテンであるリーチマイケル選手はグローバル人材共生の象徴です。ベスト8に進んだ日本代表チームとスタンドの応援団が一体となって「ワンチーム」で熱狂したワールドカップの試合は忘れることができません。
リーチマイケル選手は15歳の時、ニュージーランドから交換留学生として来日し、札幌山の手高校に入学しました。留学当初の約10カ月間、自宅で生活をともにした寿司店を営む森山修一・久美子夫妻は今も「日本のお父さん、お母さん」と慕われています。森山家では日本語漬けの日々を送り、ほかの息子と同じように久美子さんの家庭料理を食べ、特別扱いはされませんでした。小学生の国語教科書を使った学校での指導で日本語はめきめき上達しました。東海大学に進学し、東芝ブレイブルーパスに入ってからも、たびたび第二の故郷である北海道に里帰りしました。
ラグビーが素晴らしいのは、日本国籍をもっていない外国人選手も、本人が3年以上続けて日本に住んでいれば、日本代表になることができることです。31人の日本代表チームには15人の海外出身選手がいました。リーチマイケル選手はキャプテンとして「多様な人々が集まって強くなるチーム」をめざし、外国出身選手たちに積極的に日本を知る機会をつくり、自らすすんで君が代の練習などを行いました。リーチマイケル選手ら外国出身選手によってつくられた和製英語「ワンチーム」を合い言葉に心を一つにして闘う日本代表チームはこうして生まれたのです。
「日本の国柄」と同化力
なぜ、ラグビー日本代表チームが誇らしいのでしょうか。
それは「日本の国柄」と関係していると思います。神道では古代からこの世の一切合切のすべては大神の分身とされてきました、いわば大神に対する小神となるので万物はすべて神の分身、神が宿るという八百万神(やおよろずのかみ)とされてきました。山川草木、みな神の分身で山には山のいのち、川には川のいのちがあるとされてきました。人間も当然、その万物のひとつであり、万物共生の考えといえます。
日本の特性は同化力にもあります。一神教の、たとえばキリスト教は神が人間をつくり、人間のために万物は造られたとします。ですから自然をも征服できるという考えにいたります。多神教は一神教のように他を排斥しません。日本は、仏教が来れば仏教を、キリスト教が来ればキリスト教をほぼ受け入れてきました。他国の文化信仰を「寛容な精神」で受け入れることをためらわず、これを受け入れて日本流に同化します。ラグビーの日本代表チームも様々な外国出身選手を受け入れ、日本の同化力をもって素晴らしいチーム力をつくりあげました。
アジアの安定と日本の持続的発展のために
アジアの安定と成長は世界平和の試金石と言われています。アジアは日本にとって政治的、経済的、安全保障上、最も重要であることはいうまでもありません。「日本の国柄」にあこがれ、「日本を学びたい、日本で働きたい」と期待を寄せて訪れるアジアの若者がさらに増えるよう努力が必要です。アジアの安定と日本の持続的発展のために日本の国柄や伝統の精神を再認識し、向上心のある外国人材を幅広く受け入れ、未来を託すのにふさわしい人材を確保し育成することを日本の国益として取り組むことです。
人材確保、人材育成、国際貢献を共通目的に制度確立を
深刻な人口減少に直面する我が国は人材確保とともに適切な人材育成システムを構築することが肝要です。そのために技能実習制度(基礎的人材育成期間)と特定技能制度(実践的人材育成期間)の一貫性ある制度改革を行い、国内外から魅力的で実用的と評価される外国人材育成システムにすることが必要です。人材確保、人材育成、国際貢献を両制度の共通の基本目的に、キャリアステージに合わせた選択幅のある在留資格制度を確立すべきです。何よりも重要なことは日本語能力の要件化や入国前・後の研修の拡充や義務化です。外国人材が安心して活躍できる環境整備を進め、差別のない共に活躍できるグローバル人材共生社会を実現していきたいと思います。
II. 技能実習と特定技能の整合性のとれた一貫性のある制度改革
技能実習制度は1993年にスタートし、2009年に在留資格「技能実習」が新設され、2017年に技能実習法が施行された歴史があります。一方、2018年12月の臨時国会において、在留資格「特定技能」の新設を柱とする「出入国管理及び難民認定法」が可決・成立し、2019年4月1日より人手不足が深刻な産業分野において「特定技能」での新たな外国人材の受入れが可能となりました。在留技能実習生数は2019年12月末現在、411,972人で、国別ではベトナムが218,727人でトップです。在留特定技能外国人は2020年12月末現在、15,663人で、このうち技能実習ルートは85.19%の13,344人を占めます。
技能実習制度には改善すべき点が多々ありますが、30年の歴史の中で果たしてきた貢献は非常に大きいと考えます。
1. 技能実習制度の貢献
では、技能実習制度はどのような貢献をしてきたのでしょうか。
第一に日本とアジアの共存共栄の基盤になっていることです。累計で200万人を超えるアジアの若者たちが、帰国後の母国での就労において、日本で学んだ労働倫理、日本語、技能・知識を活かして母国の経済発展に貢献しています。起業する元実習生も多数おり、技能実習制度はアジア諸国の「人づくり」の場として、日本とアジアの共存共栄を支えています。
第二に技能実習生のキャリアアップになっていることです。技能実習生一人一人にとって、母国では得ることの困難な就業の機会であり、帰国後の本人のキャリアアップと家族の生活改善に貢献をしています。具体的には、佐賀大学の実態調査によると、実習生が日本に来て一番良かったと考えるのは労働倫理の習得です。「チームで協働する力」「時間内に仕事を完遂する力」「仕事の質を向上させる責任」「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」といった日本の労働倫理を学んだことは大きな力となっています。また、実習で得た貯蓄をもとに、母国で起業する人も多くいます。監理団体大手の元実習生は7,000人以上が母国で起業し、雇用の創出と地域経済発展に貢献しています。インドネシアやタイなどで元実習生による社長会が存在します。ベトナムの送り出し機関でも、元実習生70名以上が帰国後に起業しています。そして、何よりも日本語能力です。実習期間中に身につけた日本語能力を、帰国後の就職や起業などのキャリアアップに役立てている人も多くいます。
第三に受け入れ企業へのメリットです。受け入れ企業の日本人従業員の高齢化が進む中、若く向上心あふれる技能実習生は組織の活性化、生産性向上など好影響を与えています。実習生を雇用することで会社の経営が安定し、結果として会社と日本人従業員の雇用、さらに地方経済を守っています。実習生の真面目な姿が日本人社員に刺激と向上心を与え、コミュニケーションとチームワークの向上を生み、多文化共生への理解が増しています。元実習生をきっかけにした日本企業の海外進出の例もあります。
第四に地域の活性化に貢献していることです。地方自治体の中には、技能実習生を含めた外国人と地域との交流を推進し、地域活性化の梃子にしているところも増加しています。
2. 制度改革の必要性
四つの理由を見ただけでも、技能実習制度の果たす功績は大きく、この制度を廃止することは妥当でないと考えます。
目指すべき結論から言えば、技能実習制度と特定技能制度を整合性のとれた一貫性のある外国人材受け入れ制度に改革すべきです。技能実習制度を基盤に特定技能制度と一元化すべきです。改革の理念は、人材育成、人材確保、国際貢献を共通目標として、それにより日本の国益を確保することです。
なぜ、技能実習制度と特定技能制度を整合性のとれた一貫性のある制度に改革すべきなのでしょうか。
まずは社会経験の浅い段階からの外国人材確保の必要性があると考えるからです。専門的・技術的分野の在留資格とされる「特定技能」よりむしろ未経験の人材も若いうちから幅広く日本で学び、基礎から技能を習得することで将来に期待が持てます。こうした人材の安全かつ安定的な就労のためには、監理団体による保護と育成が必須です。
次に、特定技能(技能試験とN4の合格が必須)より容易に来日できるルートがないと、他の台湾、韓国のような受け入れ国に外国人材が流出することも考慮しなくてはなりません。さらに、段階的・計画的な人材確保・人材育成制度として一元化することこそが合理的だからです。
3. 制度改革の3つの意味
では、技能実習制度と特定技能制度の「一元化」とは何を意味するのでしょうか。
第一に制度目的の共通化です。技能実習も特定技能も、ともに人材育成、人材確保、国際貢献を目的とします。
第二に一貫した人材育成システムとして完成します。技能実習の3年間を基礎的人材育成期間(我が国における就労の入口)、それに続く特定技能の5年間を実践的人材育成期間として位置付けることによって、計画的で一貫した外国人材確保・人材育成システムとして完成します。
第三に対象業務(職種・作業)の統一化です。技能実習の職種・作業と、特定技能の特定産業分野・業務区分を可能な限り統一するとともに、両制度の運用の統一も図ります。
4. 制度改革に向けた具体的措置
技能実習制度と特定技能制度を整合性のとれた一貫性のある制度にするためには、どのような具体的な措置をとればいいのでしょうか。
第一に技能実習法(技能実習制度)の目的を変更することです。技能実習法を改正し、国際貢献(持続可能性のあるアジア各国の成長と安定への寄与)に加え、人材確保(及び段階的かつ計画的な技能修得による人材育成)を技能実習制度の目的として位置づけます。これにより、法の建前(技能移転による国際貢献)と実態(人手不足分野における人材確保)の齟齬を解消するとともに、特定技能制度との一元化を図ります。
第二に監理団体の許可の仕組みの改正です。監理団体は非営利組織のみに限るとの建て付けは維持します。人権侵害などのない健全な外国人就労システムの構築という観点から、監理団体の許可要件や優良基準を改正し、また登録支援機関についても許可制にすることが必要です。
第三に前職要件の撤廃です。狭い意味での技能移転を技能実習制度の目的から削除すれば、前職要件は必要ないと考えます。
第四に日本語能力要件(N5相当)の新設です。技能実習制度において、全くの実務未経験者を受け入れることになるので、労災事故の防止、労使間のコミュニケーション不全による種々の問題の防止及び日本社会において安定的な生活を可能とするために、技能実習計画認定基準として日本語能力要件(N5相当)を新設すべきです。
第五に入国前講習や入国後講習の内容・期間の拡充、継続的な日本語学習の実施義務です。入国前講習及び入国後講習について、日本の基礎的生活習慣文化、日本で犯罪となる行為を具体的に教え、一定の場合には転籍しうることを含む法的保護情報などの内容の拡充(教育すべき内容のさらなる明確化を含む)と期間の延長を行います。さらに実習実施者において実習を開始した後も、技能実習生が継続して日本語学習ができるよう監理団体や実習実施者が配慮すべき義務を技能実習法改正により規定すべきです。
第六に技能実習制度と特定技能制度との間で人材育成としての一貫性を持たせるための措置が必要です。技能実習制度の職種・作業と、特定技能制度の特定産業分野・業務区分を可能な限り統一的なものとするとともに、産業技術の発達に応じ、現状に即した職種などの区分、技能実習計画審査基準や技能検定に改めるべきです。実践的人材育成を行うべき特定技能所属機関に対し、技能修得・向上配慮義務(責務)を課すべきです。
第七に制度のさらなる適正化、労働法上の権利侵害を含む人権侵害の防止のための措置が必要です。送り出し機関の違法な手数料徴収などに係る二国間取決めに基づく情報共有・連携、送り出し国への働きかけの強化(違反者に対する摘発の強化及び厳罰化の要請)、外国人技能実習機構による審査、検査、摘発体制の徹底強化、さらに監理団体、実習実施者や失踪者を雇用する企業などへの罰則などの制裁の強化が必要です。転籍を認める場合の拡大・明確化、転籍を認める場合において、その実際的機会を可能な限り多く確保できるようにする措置と講じるべきです。
第八にキャリアステージにあわせた幅広い選択肢を在留資格制度において創設すべきです。在留期間の上限がない「特定技能2号」に係る特定産業分野を増加するとともに、日本語能力を含む一定の要件を満たした技能実習修了者について「特定活動」等での在留継続を認める(外国人材育成マネージャー、国際交流推進員、企業内管理者)。これにより、「外国人材の使い捨て」との非難はあたらないことになります。
5. 急ぐべき法的な方向性
「共存共栄のアジア新時代」を迎え、アジアの安定と日本の持続的成長のために、日本に迎え入れる外国人の若者たちの立場に立って、技能実習生や特定技能外国人の育成・保護・支援を的確に行い、差別のない健全で公平・公正な外国人材就労システムを構築すべきです。この改革ビジョンを実現するために、技能実習制度と特定技能制度を整合性のとれた一貫性のある制度に改革することこそ、急ぐべき法的な方向性と考えます。
III. 基本的課題を克服するための施策
グローバル人材共生を目指すにあたり、基本的な課題を克服するための施策は、技能実習生の意識・能力向上克服、失踪・不法滞在防止対策、人権侵害対策、偽造書類対策、人権侵害対策などに係る対外発信の強化の五つがあります。
1. 技能実習生の意識・能力向上克服
第一に訪日前の日本語能力要件(N5)の新設です。日本語能力が実習の成否を左右し、コミュケーション能力欠如が失踪などトラブル発生要因の一つであるからです。また、実習期間中も日本語学習の機会提供と、資格取得者へのインセンティブを提供すべきです。
第二に訪日前(後)研修の充実(技能実習や特定技能も同様)です。日本語に加え、実習の目的、仕事内容、日本文化・慣習、妊娠、失踪、不法滞在、犯罪予防などについて実習生の理解を深めるべきです。
そのためには、政府は日本語教育を強化すべきであり、日本語教師の派遣や日本語機関の支援など国内国外を問わず、日本を目指す外国人が日本語を学ぶ機会を増やすべきです。
2. 失踪・不法滞在防止対策
2021年3月、ベトナム政府査察局は、「外国におけるベトナム人労働者の失踪及び不法滞在の基本的原因として、労働者が規定(3600ドル)を大幅に超えた手数料(一人当たり7000-8000ドル)を支払わなければならない状況になっている。これは労働傷病兵社会省や地方政府の職務怠慢と指摘し、送出機関も含めて関係者の処分を行う旨」を発表しました。その報告書の中で偽装留学生問題についても指摘しました。これはベトナム政府の画期的な動きであり、2020年1月のダナンにおける二階俊博・自民党幹事長(日越議連会長)・フック首相会談における幹事長の指摘がきっかけでした。
こうした経緯を踏まえ、次のような取り組み強化が必要です。
(ア)キックバック(一人当たり10万~15万円)と過剰接待禁止の推進。罰則強化。
(イ)ブローカー(費用約千ドル)を利用することなく「送り出し機関」を選択できるプラットホームの構築。ベトナムでは、日本大使館、JICA、ベトナム政府で協議中。
(ウ)失踪・犯罪につながるSNSの取り締まり強化。失踪の斡旋、不法滞在者の就職、盗品の売買などはSNSを通じて実施されている。さらなる取り締まりの強化が必要。
(エ)監理団体・実習実施者の担当者が、訪日前に出来るだけ家族に会う。ベトナムやインドネシアの場合、家族の絆が強く、失踪や不法滞在の抑止力になる。
(オ)日本人職員、地域コミュニティとの交流の場を作る。実習生は職場と宿舎の往復の生活から「透明人間」との批判あり。監理団体、受け入れ企業のイニシアティブが重要。
3. 人権侵害対策(暴力・給与・残業未払いなど)
2017年に設立された外国人技能実習機構の監査の結果、2021年3月末現在、監理団体の許可取り消しは18件、認定取り消しは108業者。技能実習機構の検査、関係各省による処分はようやく機能しだしました。ただし、技能実習機構は技能実習生20万人の時代に計画、設立されたものです。現在実習生は40万人以上、監理団体は3千、実習実施者は8万社を超え、より適切な検査と厳格な処分のために「技能実習機構の早急な強化」が必要です。
こうした状況を改善する目的で、NAGOMiが発起団体となって「不正行為禁止キャンペーン」を実施します。労働関連法規と入管法の順守、キックバック、過剰接待などの禁止キャンペーンを、6月厚労省が行う外国人労働者啓発月間に合わせて開始し、半年間実施します。
さらに、優良監理団体(基準を新たに設ける)に対する監査の簡素化・効率化とインセンティブ(受け入れ人数増など)の提供、悪質企業等の刑事告発(抑止力強化)のほか、「ブラック企業の事前排除」として入管法関連で書類送検された企業名を、労基法と同様に公表すべきです。
特定技能においても、登録支援機関や労働者受け入れ企業・団体に対する厳正な検査と法令違反者に対する処分が必要です。
4. 偽造書類対策
技能実習や留学生制度において、「偽造書類」の提出が常態化しています。厳格な偽造書類対策は、「質の高い技能実習生・留学生の確保」のみならず、「借金減額」の観点からも不可欠です。
第一に技能実習生の「前職要件」の廃止です。高卒の地方出身者など職歴のない候補者が多く、偽造書類(一件数万円)を提出することが常態化しています。何種類もの偽造書類を用意するケースもあります。
第二に日本語学校留学生の在留資格審査にあたり、ベトナムの場合には教育訓練省発行の高校卒業認定書や成績証明書の提出の義務付けが必要です。健康診断(特に結核)の義務化の早期実施が必要です。今まで勉強したこともなく、勉強する気もない人が留学生の在留資格を得て訪日した例が多くあります。東京福祉大学の問題発覚後(2019年)資格審査は厳しくなっていますが、認定書提出の義務化は強い抑止力になります。これの偽造は当該国において公文書偽造となります。
第三に「技能・人文知識・国際業務」の資格審査にあたり、ベトナムの場合、教育訓練省発行の大学卒業認定書や成績証明書の提出の義務付けが必要です。この資格で入国する人は急増していますが、この制度を悪用して本来資格のない人を訪日させているとの噂が絶えません。
5. 都道府県単位のグローバル人材共生会議を設置
国、都道府県のブランド力(信用・安心・提携)、市町村との地域密着力、民間の機動力及び専門家など産学官ワンチームによる「グローバル人材共生会議」を都道府県単位に設置すべきです。
6. 人権侵害対策などに係る対外発信の強化
特に、米国国務省、ベトナムをはじめとする各国政府、各種人権団体に対する発信を強化すべきです。