政策インタビュー(13) 山下貴司・元法務大臣

グローバル人材共生の政策に関わる実務者、識者らの政策インタビューの第13回は、元法務大臣で自民党政策調査会副会長の山下貴司衆議院議員(岡山2区)が技能実習制度・特定技能制度の見直しをめぐる転籍などの論点について、2023年12月15日開催のNAGOMiフォーラムin東京に寄せたビデオメッセージをもとにまとめました。山下議員は法務大臣在任中、出入国在留管理庁を設置し、新たな在留資格として特定技能の資格を新設するなど外国人材受入れ政策に精通した政治家の一人です。

——— 山下元法務大臣のビデオメッセージの内容は次の通り ———

地域の経済やさまざまな産業を支えてきた技能実習制度

 我が国の技能実習制度は、建設業や農業をはじめとする幅広い業種で受け入れられ、年間30万から40万の外国人の方が技能を身につけ、そして我が国の経済を支えてくれました。この技能実習制度と特定技能制度については、法律上、見直しを行うこととなっており、政府としても、現行の技能実習制度に替えて、我が国社会の人手不足分野における人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設することとしています。この技能実習制度等の見直しについて、自民党では外国人労働者等特別委員会(委員長・松山政司元内閣府大臣、委員長代理・山下議員)において、議論を重ねてまいりました。

 新たな制度のあり方については、昨年秋の緊急経済対策に関する首相官邸ホームページで明記されているように、「未熟練労働者として外国人を受け入れ、基本的に3年間、企業等において就労を通じた育成を行い、特定技能1号へとステップアップしてもらうこと」を目指します。他方、これまでの技能実習制度において、いわゆる「失踪」ということがあったことが指摘され、また強制労働につながるのではないかという懸念も指摘されていたことから、こうした懸念を解消した上で、この技能実習制度を発展的に解消するという方向で制度設計を考えているところであります。

これまでの制度の適確な評価を踏まえ、国際的な人権基準に則った制度設計を

 新たな制度を考えるにあたっては、年間9000人ぐらい発生する「失踪」の原因をしっかりと把握した上で適確な対策をとることが必要です。ところで、この「失踪」の存在を一つの根拠として、あらたな制度では、外国人の意思による転籍期間を入国後1年で認めるべきとの指摘もなされています。もちろん、「失踪」が雇用主等による強制労働などの人権侵害が原因である場合には、「やむを得ない事由」があるものとして、1年を待たず直ちに転籍が認められるべきですが、そのような事情がない場合にまで1年間で転籍することが常態化すれば、安定した雇用関係に基づいた人材育成が阻害され、外国人材にとっても「就労を通じた育成」や日本語能力が不十分なまま悪質な仲介者を軽信して職場を転々とすることにもなりかねず、人材の育成及び確保の観点からも、外国人材の保護という観点からも問題が生じうるとの指摘も十分傾聴に値すると思われます。技能実習制度においては、「失踪」は全体の2~3%であり、残りの実習生は、しっかりと日本で技能を身につけて修了し、さらに特定技能などの在留資格を得て日本で活躍する者も少なくありません。その背景には制度をしっかりと支えてくださった監理団体はじめ関係者、雇用者の皆様の努力があるということは、忘れてはならないことだと思います。

 また、国際比較的に見ると、例えば韓国や台湾は労働者側が1年経てば自由に転籍できるという制度にはなっていません。確かに、アメリカなどの英米法の国では転籍ということが比較的容易なのですが、逆に解雇も容易であるという各国それぞれの労働法制や外国人共生政策があります。転籍を1年で認めることが国際基準とまではいえないのです。

 従って、人権侵害を生じないための国際的な人権基準に則って制度をつくっていくことは当然ですが、これまで人材育成の上でも、そして経済を支える上でも貢献してきた技能実習制度の経験を踏まえ、失踪の原因をしっかりと調査把握した上で、特定技能との制度上の連続性を持った新しい人材育成制度を作っていくべきだと思います。

関係団体のヒアリングを踏まえた自民党外特別委の提言

 そのような問題認識に立った上で、自民党外国人労働者等特委では、関係団体からの技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関してヒアリングを踏まえ、提言を取りまとめました。その提言の中では、制度改正の全体像を早期に示すこと、転籍を不当に助長することで利益を得ようとする悪質ブローカーを排除すること、そして、転籍については「3年の育成期間に留意しつつ、当分の間、同一機関での就労が少なくとも2年とすることを可能とするなど、外国人材・受入れ機関・各分野等の事情に配慮すること」といったことも提言しました(https://www.jimin.jp/news/policy/207230.html)。外国人共生社会を創り上げる制度改正のためには、課題を整理した上で、国民の十分な理解を得た上で法案等を提出することが必要です。

 これからもNAGOMiの皆様をはじめ、国民の皆様のご意見をしっかりと伺って、本当の意味での外国人共生社会を作り上げていきたいと思います。

山下貴司(やました・たかし)衆議院議員
岡山県第2選挙区。当選4回。検事(東京地検特捜部など)、弁護士を経て政界入り、法務大臣政務官、法務大臣などを歴任。現在、自民党政策調査会副会長。58歳。