政策インタビュー(14)里見隆治・公明党参議院議員

グローバル人材共生の政策に関わる実務者、識者らの政策インタビューの第14回は、公明党の里見隆治参議院議員(愛知県選挙区)から、外国人材の受入れや「育成就労」創設の改正法案などについての基本的な考えを聞きました。里見議員は厚労省外国人雇用対策課の企画官・室長などを経て政界入りし、公明党外国人材受入れ対策本部事務局長や超党派の日本語教育推進議連事務局長として外国人材受入れをライフワークとして活躍しています。

原点はリーマンショックで解雇された日系ブラジル人の日本語支援等の救済

―外国人材の受入れの基本的な考えを聞かせてください。

里見議員 私の原点と言っていいが、2009年から2011年にかけ、勤務していた厚労省の外国人雇用対策課で、日系ブラジル人の支援をしていたことです。リーマンショック直後に日系ブラジル人が解雇され、ある方は母国に帰り、ある方は日本に留(とど)まって再起を期すという状況だった。しかし、日本語が不得手な日系人のため、厚労省で予算を組んで日本語教育と就労支援をしました。私自身、愛知県の安城市や豊田市、静岡県の浜松市など日系人が多く住むコミュニティにもよくお伺いしました。そして、「必要な時には人材を大量に採用しておいて、リーマンショックにより経済状況が悪くなるとすぐに解雇される。使い捨てのような外国人材の受入れ方をしていて本当にいいのだろうか」と痛感しました。日系人コミュニティに生活し、工場で働いている分には日本語があまりできなくてもいいが、日本に住んで転職を重ね、地域になじんで生活するにはやはり日本語が重要になってくる。これからの重要課題の一つは日本語の習得だというのが外国人材受入れの原点です。

愛知県は産業の集積地、「外国人材なくして経済が成り立たない日本の縮図」

―議員になられてからも外国人材受け入れに精力的に関わっています。

里見議員 私にとって外国人材受け入れはライフワークです。(選挙区の)愛知県は自動車をはじめ、モノづくり、産業の集積地ということで、東京に次いで多くの外国人労働者が働いており、技能実習生、特定技能外国人の受け入れも盛んです。外国人材なくして愛知県の経済、中部の経済は成り立ちません。将来の日本の縮図と言ってもいいでしょう。日本語教育をどう進めるか。議員になって早々に日本語教育推進議員連盟の事務局次長、その後事務局長として日本語教育推進法の制定、政府に働きかけることにより日本語教育機関認定法などの成立に向けて取り組んできました。

―4月16日から技能実習制度、特定技能制度の改正案の審議が国会でスタートしました。改正案の評価はいかがですか。

里見議員 技能実習では日本の技能を習得し母国に帰ることが前提でした。これが育成就労に代わり、特定技能につなぎ連続性を持たせる制度となることは大きな前進だと思っている。(この制度改正で)外国人にこれまで以上に日本を選んでいただくことを願っている。受け入れた外国人材を育成するのは、最初は大変だと思うが、やがて企業にも地域にも重要な人材になるので、その意味でも日本社会全体としてプラスに作用すると思います。

転籍は「人権」と「育成」の二つの側面をクリアする形の対応に

―「転籍」の問題が論議になりましたが、どうお考えですか。

里見議員 転籍に関しては賛否両論の意見があったが、公明党としてはバランスをとった。技能実習制度において海外からも人権面で批判された「転籍の自由が奪われている」ということを解放する形で改正しなければいけないという側面と、その一方で人材育成という観点から短期では育成ができず、まして入国していきなり転籍されては育成できないという側面がある。双方の観点を勘案したうえで、今回成案をみたように、入国後1〜2年という期間において、本人が育成された程度や労働条件について一定の条件を課すことで転籍ができる、加えて初期費用を公平に分担することを要件とすることで転籍を認めることにした。その意味では相反する二つの側面の双方をクリアする形の対応になったのではないかと思う。党内ではかなり議論した。実施状況をみないと分からないこともあるので施行後3年の検討において実績をみてフォローしていく必要があると思います。

地域の国際化とともに日本がアジアに広がっていくことが必要

―未来に向けて多文化共生社会の青写真をどう描いていますか。

里見議員 地域にあっては、(制度改正で)地域別の協議会を設けることになっているので、受け入れ企業をはじめ、業界、自治体、地域のコミュニティで重層的に外国人材を受け入れていく。外国人材がいかにその地域、社会に溶け込んで生活していけるかが大事です。日本国内の国際化とともに、アジアの中でいかに日本が生きていくか、存在感を発揮できるかという視点も重要になってくる。日本で技能を習得して、日本に残る方もいるし、母国に帰る方もいる。母国に帰った方と現地で展開する日本企業とのネットワークが集積してくれば、日本企業も日本人も海外で展開しやすくなる。われわれの生活や経済が日本に留まらず、アジアとのかかわりの中で広がっていくと捉えられるのではないか。 日本の人口減少の中で、成長してゆくアジアと関わりを深める中で、人の往来を重ねていくことが最も重要ではないかと思う。昭和以来、日本人に海外に留学せよ、日本企業は海外進出せよ、とやってきたけれども、加えて海外から外国人材が来てもらって、その方が戻ることで、我々の世界が広がっていくのではないかと考えています。

―具体的な例はありますか。

里見議員 厚労省の外国人雇用対策課で、EPA(経済連携協定)に基づいてフィリピン、インドネシアから来ていただいた介護福祉士、看護師の候補者の支援も担当した。国家試験に合格して日本にそのまま在留した方もいるし、母国に帰って介護、看護の仕事に就く方もいました。介護については、日本型の介護というビジネスモデルを、施設型であれ、訪問型であれ、アジア各国と共有していくことは大変有意義だ。アジア各国も今後、高齢化していく中で、ビジネスとして輸出するだけではなく、それを担う人材として、日本で自ら介護を体験して母国でそれを実践することは、大きな広がりをもっている。日本国内の地域の国際化とともに、日本発のものがアジアで広がっていくという両面が大切だと思います。

【略歴】里見隆治(さとみ・りゅうじ)参議院院議員
参議院愛知県選挙区。当選2回。厚労省で勤務した後に政界に入り、経済産業大臣政務官、内閣府大臣政務官、復興大臣政務官などを歴任。公明党愛知県本部代表。公明党厚生労働副部会長。56歳。