グローバル人材共生の政策に関わる実務者、識者らの政策インタビューの第12回は自民党の柿沢未途衆院議員から外国人材受け入れや「選ばれる国」になるための基本的な考えを聞きました。柿沢議員はNHK記者を経て政界入りし、グローバル人材共生推進議員連盟の会合などで積極的に発言しています。
―地元は東京都江東区ですね。
柿沢衆院議員 江東区はたくさんのインド人が住んでいる地域です。IT関連やエンジニアの方も多い。特に大島六丁目団地はインド人学校が近くにあるため、その比率が格段に高いことで有名です。私は一緒にクリケットをやったり、インドのお祭りに参加したりと多文化共生の取り組みをしています。
ラグビー日本代表の「ワンチーム」が多文化共生のモデル
―外国人材受け入れの基本的な考えはいかがですか。
柿沢衆院議員 2020年、国会議員10年を機に「柿沢未途の日本再生」という著書を出しました。2019年に書いたものですが、外国人材受け入れと多文化共生の必要性を書かせてもらった。これから日本では2060年までに2,800万人ぐらいの生産年齢人口が激減する。これから10年間ごとに700万人近くの働き手が失われていく。いくら出生率、出生率と言っても、今は80万人を切るような出生人口で母集団が少なくなるわけですから、劇的に増やすことは見込めなくなる。そうなると、外国人材を社会の担い手として取り込んでいくことは良いとか悪いとかの問題を超えて必然不可避になるだろうととらえています。
―どういう多文化共生のイメージですか。
柿沢衆院議員 私は中学、高校とラグビーをやっていました。ラグビーのリーチマイケルは本来(英語読みでは)マイケルリーチだが、日本人になり日本人と結婚して日本人名のリーチマイケルとなった。2019 年のワールドカップでは日本代表になり、「ワンチーム」のシンボルとして活躍した。日本代表チームは多くの日本人の尊敬を受けたわけですが、チーム構成をみると、典型的な日本人じゃない選手がいっぱいいるわけですよ。リーチマイケルがキャプテンで円陣を組む時、侍(さむらい)の鎧兜を真ん中に置いて武士道精神を共有して試合に臨んだと聞いています。日本の精神を体現し、試合に臨んでいるわけだから、そのチームを見て日本を代表していないという人は今やほとんどいないと思います。こういう日本の社会になればいいのではないか。日本の文化や歴史を理解していただきコミュニケーションツールの日本語をきちんと習得していただければ、仲間として受け入れる条件はそろっていると思います。
新しい時代の日本社会の担い手として社会統合が必要
―日本語の習得は大切ですか。
柿沢衆院議員 例えば、ゴミ出しのルールが分からないと言ってもそれは書いている日本語が分からないことが理由だったりします。こうした事情でコミュニケーションがとれず、あの人たちが何を考えているのか分からないという外国人居住者への恐怖感があると思うので、日本語教育をきちんとやって外国人材を受け入れ、家族も帯同してもらい、新しい時代の日本社会の担い手として社会統合をすることが必要です。そうした多様な人材が活躍する社会になれば、むしろ日本は活性化する。日本のインバウンドツーリズムをみれば分かる通り、日本を訪れてみたい、住んでみたい、ここで子育てしたい、という外国人が多いうちに外国人材受け入れを積極的に進めなくてはいけない。ただし外国人労働者、外国人居住者に対する扱いが、出入国在留管理庁を含めて冷たいイメージがあり、そこは早急に変えないといけない。そこの改善をきちんとアピールできれば、選ばれる国になる条件はまだ十分にある。今が選ばれる国になるための最後のチャンスだと思っています。
―NAGOMiは技能実習制度と特定技能制度の整合性のある一体化改革を提言しています。
柿沢衆院議員 NAGOMiの提言は現実的で実態に即したものであると受け止めています。一番現場のことを分かっている方々が考えられた案ではないかと思います。(グローバル人材共生推進議連の会合で)武部勤会⾧が言ったように、特定技能で入ってきた人よりも、キャリアや日本の在住経験から技能実習生の方がむしろ優位というか、技能実習で入ってきた方が特定技能外国人を教えている、指導的な立場にいるということは現実あると思います。技能実習制度の目的である「技術移転による国際貢献」をどう捉えるかの問題はありますが、実際にはワーカーとしての側面が強くなっていると思うので、留学生で働いている方を含めて、キャリア、在住年数、日本語能力、スキルに応じて、段々と階段を上がっていくというようなシームレスな制度に整備していく必要性があると考えています。
―他に留意すべき点は。
柿沢衆院議員 転職と家族の帯同の問題です。世界的に転職を制限していることは労働者の人権にかかわる問題とみなされがちです。しかし、誰でも彼でも受け入れなければならない義務は国家にはなく、有益な人材を選択的に受け入れることは何ら問題がないと専門家も指摘しています。実質的に日本人と変わらなく仕事ができ生活ができるステータスを得るには一定の期間、信任を得る実績を踏んでもらうことは必要だと思います。家族の帯同は、ネパール人が顕著で家族を引き連れて、かなり長く定住することを前提に日本に来る方が増えています。そういう場合はお子さんの学校や家族の日本語習得をどうするかなどの問題も出てきます。社会統合政策の一環としてドイツのように言葉と文化ということをあらかじめレクチャー、ガイダンスすることが社会インフラととらえて整備しなくてはいけないと思います。日本語教育を充実させるため、JSL(Japanese as a Second Language、第2言語としての日本語)教育を積極的に行えるよう、それを各地方自治体の公的サービスにするように日本語推進議員連盟の中で話しています。
入国後の生活者の側面からも受け入れ体制の整備を
―技能実習制度・特定技能制度改正に向けて政府の有識者会議が議論していますが、何か注文はありますか。
柿沢衆院議員 外国人労働者に関する在留資格の問題を中心とした議論がメインだと思いまが、むしろそうした方々は入国した後には生活者の側面が大きくなるわけです。生活者の側面から外国人をどう社会統合していくのか。受入企業と労働者の関係にとどまらない重層的な視点が大切です。そのためには法務省が所管するというのでは手に余(あま)る。日本語教育についても文化庁国語科が所管ではあるけどそれでいいのかとの意見もある。送出国の立場に立って、送出国のワーカーに対して誰が責任を持っているのかを受入国として対外的に明確にしなければいけないと感じます。(責任を明確にしないことが)ひいては送出国の人材を日本へ送り出す障壁になってくるかもしれず、そういう意味で外国人材受け入れを統括する体制の整備が必要になっていると思います。
【略歴】柿沢未途(かきざわ・みと)衆院議員
東京15区(江東区)。当選5回。NHK記者を経て政界入り、自民党国会対策委員会副委員長、衆院予算委員会理事を歴任。52歳。